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ゴンズイ [アトリエN]

「親父こそ自分のことが一番わかってないじゃないか!」
ちょっとした諍いのはてに、こう言い放って家を飛び出した息子の後姿をにらみつけながら、握りしめた拳をふるわせてN氏は立ち尽くしていた。
“自分の事は自分が一番わかっている” と、鼻息荒くわが道を歩んできたN氏。だが、実はそれもどうやら勘違いだったと、心ひそかに思い始めていた矢先の痛烈な捨て台詞。

古来稀なりと云われている年齢(よわい)を目前にしてそれを認めるのは、かなり辛いことである。
視線の先には暗紅色の実をつけた樹が雑木林の中で秋の雨に濡れてくすんでいる。
「ゴンズイ」なまず目の海水魚。背鰭と腹鰭に毒棘を持ち、釣り人からは外道と忌み嫌われる。「ゴンズイ」ミツバウツギ科の落葉性小高木。牧野富太郎博士は「役に立たないところから魚のゴンズイの名前があてられた」と説いている。
妻は20年も前にさっさとあの世に逃げて行ってしまった。晩(おそ)くに生まれた一人息子は家に引きこもっている。会社を定年退職してからは、近隣との付き合いもなく、話相手もほとんどいない。
鬼の部長として部下を叱り飛ばしていたかつての企業戦士も、一介の老爺となってしまえば濡れ落ち葉にひとしい。
次の日、朝から秋晴れとなった。
深夜に帰ってきた息子が起きてきて、玄関前のN氏の隣に立つ。
「きのうは言い過ぎた。ごめんな」
「ああ?うん」
ぎごちなく仲直りをする親子。
秋の陽に照らされたゴンズイの実は、鮮やかに輝いてルビーの房のようだ。
「こうやってみると、結構きれいじゃん」
「魚の方も食えば旨いそうだ。今度釣りにでもいくか」
「うん・いいね」
久しぶりに父子のおだやかな会話が続いている。
N田さん 「なな山だより」38号より

ゴンズイ_魚.png
ナマズ目 ゴンズイ

ゴンズイ_花.png
ゴンズイの花言葉:一芸に秀でる


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