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ランになれなかった男 -アトリエN [アトリエN]

なな山に住まいされる土地神のおひとり、中谷主命(ナカノタニノヌシノミコト)の前に、ある日一人の若者がやってきた。
「神様、私を花にしてください」
またとんでもなくメンドクサイ奴が現れたわい、と中谷主命は舌打ちして、
「なにゆえにそう願うのじゃ」
と、のたまわれた。
若者が言うには
「ヒトの世は、争いに満ちています。わたくしは花になって、平和に暮らしたいのです」
命「なにをバカなことをいう。生き物はすべて争いのなかで生きるものじゃ。ヒトであろうが獣であろうが、花であろうが、戦って生き抜くほかに道はないのじゃ。やめとけ、やめとけ、花なんぞよりは人間のほうがよっぽどましであるぞ。食えなくなれば生活保護もあるしのう」
すると若者は上目づかいにミコトをみて、こう云った。
「ひょっとして、神様はわたくしを花に変えるほどの力がないのでは?」
命「なにをいうか。それならば、花に変えてやるから誓約書を書け」
若「誓約書でございますか?」
命「そうじゃ、あとでゴタゴタになるのはゴメンじゃからのう」
若「ははあ、あなたさまはそれほど高位の神様ではないのですね。百条委員会とかが怖いのでしょう?」
ニヤリと笑う若者にミコトはむっとして
命「みかけによらず性格の悪い奴じゃ。そんなことではヒトの世も棲みにくかろう。いいから、さっさと誓約書を書け」
若「書きますとも」
若者が書いた誓約書を懐にしまった神様に若者が尋ねた。
「ところで、わたくしを何の花に変えて戴けるのですか?」
命「そうよなあ、ドクダミなどはどうじゃ?」
若「あれは臭くて嫌でございます」
命「メンドクサイやつじゃ。それならば、おまえの望みをいうてみよ」
若「キンランがよろしゅうございます」
命「贅沢をいいおって」
メンドクサくなった中谷主命が手のひらを一振りすると、若者はキンランの根っこに変わったのであったが、花期になっても芽は出てこない。中谷主命がある日、林内を散策していると、地中から声がして
「神様、お救けください」
命「その声はあの時の若者じゃな、どうしたのじゃ」
若「たくさんの菌がうじゃうじゃと群がってくるのですよ。なんとか追い払って戴けませんか」
命「なにを愚かなことを。それは共生菌といって、そいつらなしではランは生きられぬのじゃ、花を咲かすにも、菌の助けがいるのじゃぞ」
若「そんなことを今頃言われても困ります。はじめに言ってくださらなければ」
命「良く聞けよ」
中谷主命が申されるには
「ニンゲンの腹の中にも百兆以上の菌が棲まっておるし、皮膚にも1兆以上の常在菌がおるのじゃ。いうてみれば、いきものというものは、菌と一緒に体を作り上げておるのであるぞ。百や二百の菌でうだうだ言ってどうする」
若「そうなのですか、初めて知りました」
命「であるから、キンランでいたいのなら、菌と仲良くしなければいかぬぞ。よく話し合うのじゃ、メンドクサがらずにな」
若「あなたさまに言われたくはありません」

結局、若者はキンランになることはできなかった。若者が菌を嫌った以上に、菌も若者を嫌ったようである。
途方にくれた若者が、
「神様、私はどうしたらよいのでしょう?」
命「人間に戻るしかあるまい」
若「人間界は嫌なことばかりです。どう切り抜ければいいのでしょう?」
命「そうよのう、嫌なことは柳に風と受け流せばよいのではないか?」
すると若者は、ガバ!と命にしがみつき、こう言った。
「神様、それでは私を柳にしてください」
              おしまい。
  N田さん

キンラン_2.jpg
キンラン。4月から5月にかけて開花する。花は半開きで完全に開かない姿が可憐。絶滅危惧種。菌類と共生しているので、採取しても育てるのは不可能。

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