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大根のような・・・・・ -アトリエN- [アトリエN]

 せり・なずな・ごぎょう(おぎょう)・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろこれや七草。
 ご存じ春の七草のうち、すずなとは蕪(小蕪)のことで、すずしろとは大根のことであるが、どうしてこのふたつに「すず」がついているのかと不思議に思っていた。
 ちくま学芸文庫の『花物語』(牧野富太郎著)を読んで、疑問が解けた。
 すずなの「すず」は小さいという意味で、すずしろの「すず」は清らかの意味なのだそうだ。すずしろの語は清白とでも宛てれば良いのだろう。
 昔々の大根は、今日のように太くなかった。
 「大根足」という言葉があるが、古事記には「大根のように白く細い腕」という表現が有り、そのことからも、大根のような足とは、ファッションモデルのように白くてほっそりした脚という褒め言葉だったのだろう。
 大根足が「ぶっとい足」という意味で使われるようになったのは、江戸時代以降のことであるそうだ。営農家のたゆまぬ努力が、今日のような大きくて種々さまざまな大根を作り上げたのである。
 植物学的には、蕪の実の部分は胚軸(茎と根の間の部分)が肥大したもの。大根の場合は上半分が胚軸、下半分が根の、それぞれ肥大した部分であるそうで、その証拠に蕪の根毛は実の下についているが、大根の根毛は実の下半分にその痕跡がある。
 三国志で有名な蜀の軍師・諸葛孔明の名にちなむ諸葛菜とは、実は蕪のことで、遠征時の兵の食料として改良したのでその名がついたらしいが、なぜ日本でオオアラセイトウ(ムラサキハナナ)の別名となってしまったのかは謎である。中国と日本での植物名の取り違えは、ほかにもたくさんあるようだ。
 芝居の下手な役者を大根役者というが、これには諸説あり、大根が白いことからシロウト(素人)に近い役者のことを言った……という説や、大根はいくら食べても食あたりしないことから、当たらない役者のことをなぞらえたとか、早々に舞台から降ろされるので、大根おろしにひっかけたという説など、さまざまあるようだ。
 いろいろと莫迦にされがちな大根だが、なな山の菜園で採れる大根はたまらなく旨い。
 T橋さんをはじめ、携わった皆さんの丹精の賜物だろうが、なな山に限って言えば「大根のような」とは、素朴だが格別に旨いことの形容句と言っていいだろう。
  N田さん

花ダイコン.jpg
花ダイコン。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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大家と店子のはなし -アトリエN- [アトリエN]

 大工職人の与太郎が店賃(たなちん)を6ヶ月も溜めて、道具箱を大家に取り上げられてしまうことから巻き起こる騒動を描いた落語「大工裁き」。
 店子同士が(俺は何年入れてない・いや、うちは親の代から入れてない)と自慢?しあう「長屋の花見」「黄金の大黒」。
 江戸時代には店賃を払わない店子と、それを取り立てようとする大家との攻防がそれほど沢山あったのだろうか?おそらくそんなことはあるまいが、持たざる者の悲しさとたくましさをおかしくも明るく描き出す名作話芸だと思う。
 生物の世界にも大家と店子の関係はあって、その一つはマメ科植物に見られる。
 枝豆やカラスノエンドウなどのマメ科植物と根粒菌との関係である。
 マメ科植物は、根粒菌の空中窒素固定能力のおかげで養分の少ない荒れ地でも育つが、その菌のすみかである根粒はマメ科植物が自ら作り出して提供する。根粒菌がやってきて何らかの化学的信号を出すと、マメ科植物の根の先端が菌を包み込むように捲れかえって迎え入れ、細い通路を作って根粒まで誘導しさえする。それだけではなく、根粒菌の生活エネルギーとなる糖まで与えるのだそうだ。
 長屋を提供するどころか三度の飯まで面倒みるというのだから、並みの大家ではない。
 もともとは病原菌として侵入を試みた根粒菌とマメ科植物との厳しくも果てしない攻防の末に、お互いの利用価値に気付いた両者が共生を選択したということなのだろうが、しょせん持てるものと持たざるものとの駆け引きなのだから、そこには美談だけでは済まされないシビアな側面もあるという。
 大家さんの情けに感じ入った店子が、せっせと窒素固定作業に励んでいる間はいいが、なかには仕事を怠ける根粒菌もいないではない。店賃である窒素の生産を滞らせる根粒菌には、栄養分の供給をカットしたり、根粒への通路を閉ざしたりして、制裁を加えるという。マメ科植物の大家さんは、店子の働きぶりをマメにチェックしているのである。
 生物の世界に管理会社があるわけではないのだから、この大家稼業、結構大変なのだ。
 もっとも、人生ん十年、一度として「持てるもの」になったことのない私だから、マメ科植物の苦労も今一つピンとこないのではあるが・・・。
  N田さん

カラスノエンドウ.jpg
カラスノエンドウ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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早乙女花 -アトリエN- [アトリエN]

 白とピンクの小さな花を夏の風に揺らしながら、早乙女花は考えた。
 「いやな虫たちが私を食べようと狙っているわ。むざむざやられてなるもんですか。」
 では、どうしたらいいのだろうか?蔓をもっと太く硬くするのも、鋭い棘を生やすのも、フェンスに巻きつくには都合が悪い。
 思案の果てに早乙女花は奇想天外な自衛策を考え出した。『ペデロシド』という化学成分を体内に溜めこむことにしたのである。
 心得違いの虫どもが茎や葉に喰らいついて傷つけると、それは分解してメルカプタンというガスになり、強烈な悪臭を放つ。
 いくら虫でも臭いものは臭いのだ。みんな閉口して逃げ出してしまった。
 ふふん、どんなもんよ、食べれるものなら食べてみなさい……と、いまはやりの「ら抜き言葉」で早乙女花は得意顔。
 ところが、思いもかけぬ挑戦者が現れた。
 「おう、有難く戴いてやろうじゃないか、姐ちゃんよ」と言ったかどうかは解らないが、その虫は早乙女花をむしゃむしゃとたいらげ、挙句の果てにメルカプタンまで自分の体に取り込んでしまった。彼の天敵であるテントウムシもこれには降参である。
 早乙女花は、別名ヘクソカズラ。なな山では、バス通り際のフェンスに巻きついているのを見ることができる。
 敵役の虫はヘクソカズラヒゲナガアブラムシ。
 それではヘクソカズラはアブラムシに食い尽くされたのか?
 テントウムシに捕食されなくなったヒゲナガアブラムシは大繁殖したのか?
 決してそうはならない。
 独り勝ちを許さないのが自然界の掟なのである。
 そんな掟なぞどこ吹く風でわが世の春を謳歌しているように見えるヒト族だって、決して例外では有り得ないと思う。
 だって有史以来、こんなにも同族同士で殺し合いをしてきた種は、ほかにいないであろうから。
  N田さん

ヘクソカズラ.jpg
早乙女花(ヘクソカズラ)。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

ヘクソカズラヒゲナガアブラムシ(weblio辞書)
http://www.weblio.jp/content/%E3%83%98%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%82%AB%E3%82%BA%E3%83%A9%E3%83%92%E3%82%B2%E3%83%8A%E3%82%AC%E3%82%A2%E3%83%96%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%82%B7

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右巻き・左巻き -アトリエN- [アトリエN]

 フジの幼木のツルは左巻きだが、成木は右巻きだという話を聞いたことがある。成長の途中でツルの伸びる方向が変わるのかと思ったら、何のことはない。幼木は上から見おろし、大人になったら下から見上げるので、左右が変わるというのだ。
 要するに観察者の視点の問題にすぎないのであって、フジギ(不思議)でもなんでもないのである(ここ、笑うとこ)。
 しかし、ツル植物の巻きかたについては、若干の混乱があるらしく、アサガオは左巻きと決まっているが、同じ左巻きのはずのヤマフジが図鑑によっては右巻きと記載されていたりして、どうもよくわからない。
 とりあえず、左回りに巻きつくツル植物を左巻きと呼ぶことにするなら、アサガオと同じヒルガオ科のマルバアサガオ・ヒルガオ・ネナシカズラ・マメダオシはどれも左巻き。
 マメ科ではクズ(葛)・インゲンマメは左巻きなのにフジ・ナツフジは右巻きである。
 そんなのどうだっていいじゃん、おれは好きに巻くからよ、と開き直るツル植物もちゃんといて、ヤマノイモ・ヘチマ・カラスウリは右にも左にも巻く。
 節操がないというべきか、それとも自由闊達というべきか、判断に苦しむところだが、そんな生き方も別に嫌いではない。
 ちなみに、つる植物ではないが、ラン科のネジバナにはヒダリマキという異名があるにもかかわらず、実際は左右どちらにも花をねじる(飽きたらねじるのをやめるらしい)。
 夏のなな山の法面にはびこる葛(クズ)は左巻きながら、賢い植物である。
 有り余る直射日光はむしろ植物に有害であるそうだが、葛は強すぎる陽射しの下では葉を立てて昼寝をする。
 そして夜が来ると、水分の蒸発を防ぐために葉を下に垂らして眠るのである。
 夏の盛りには体力の消耗を防ぐために、冬には厳しい寒さから身を護り、春には暁を覚えず、秋には美味いものをたらふく胃に詰め込み、食べ疲れでひねもす寝て過ごす。
 そういう生活が出来たらなと夢想する私であるが、どうやら夢物語に終わりそうだ。
 それでも万が一そんなことになったら、世間は私の事を「人間のクズ・左巻き」と呼ぶのであろうか?
  N田さん

藤棚.jpg
藤棚。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

クズの花.jpg
クズの花。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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スギナの追憶 【アトリエN】 [アトリエN]

 ♪つくしだれの子スギナの子♪という歌がある。私は唄った記憶は全くないので、どんなメロディなのか思い浮かばないが、つくしはスギナの胞子茎であり、子供というよりは花に近いと言える。このスギナの地下茎は地底深く拡がっているのが特徴で、俗説では閻魔の庁の自在鉤になっているとか、いや、海の底深くを這って、アメリカ大陸まで伸びているとか云われているそうだ。
 それはあまりにも荒唐無稽な話だろうが、かなりの深さまで地下茎を展開しているのは事実で、原子の火に焼かれた被爆地で最初に萌え出した緑は、スギナであったという。
 地上を焼き尽くした数千度の熱が届かない地中深く生き延びた地下茎が、被爆地に最初の緑を届けたのである。
 このスギナ、植物としてはかなり原始的なシダ植物である。巨大恐竜が跋扈していた石炭紀には、地上数十メートルにも達する巨木の大森林を構成していた。小惑星が衝突したり、その後の数次にわたる全球凍結など地球環境の大変動により、巨大恐竜は死滅したが、スギナは自らのサイズを極小化し、短命化(速やかな世代交代)することで環境激変をしぶとく生き延びたのである。
 長寿化や物心両面に渉る飽くなき成長を指向しているヒト族も、スギナの知恵に学ぶべきではないだろうか?環境を力ずくで変えようとするのではなく、自らの生き方を環境に合わせる・そういう東洋本来の考え方に立ち還ってもいいのではないだろうか?
 それにしても地上数十メートルにも及ぶスギナの大森林が放つ胞子の雨に打たれたティラノサウルスが、花粉症ならぬ胞子症でぐじゅぐじゅと鼻水を垂らしながら、草食恐竜を追いかけている、その姿を想像すると笑えてしまう。
 科学的根拠の全くない妄想ではあるが、恐竜絶滅直後の地層には、大量の胞子の堆積が見られるという(それが何を意味するのかはわかりません)。
 初夏の風にわが身を揺らしながら、小さなスギナたちは、そうした太古の思い出に浸っているのかもしれない。
  N田さん

スギナ_2017-05-26.jpg
スギナ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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てっぺん童子(わらし)の冬 -アトリエN [アトリエN]

葉が落ちて丸裸になってしまった樹冠は、てっぺん童子にとっても楽しい場所ではない。
特に北風が吹きすさぶ真冬の夜などは、もうどうしようもなく淋しくて、てっぺん童子は地面に降りてくることがある。
目指す場所は、アナグマの巣である。
ここらあたりと見当をつけた茂みの下の小穴に潜り込んでみると、母子のアナグマが抱き合って寝ている姿を見つけた。てっぺん童子はそっともぐりこむ。母親が薄目をあけて黙って抱き寄せた。お互いに言葉を交わすことも無く、すぐに夢に墜ちてしまう。
その夢の中で、寒風の吹きすさぶ樹冠の上にてっぺん童子は戻っている。
ビュービュー・ビュルル・ゴーウゴウ
北風は容赦なく裸の梢を鳴らしているが、その枝の先には、硬くこごえている木の葉の越冬芽がある。
ビュービュー・ビュルル・ゴーウゴウ
てっぺん童子は大きくほっぺをふくらませて、「ほう・ほう・ほわああん」とあたたかい息を吹きかけた。北風が怒り狂い、さらにはげしく吹き募る。
ビュービュー・ビュルル・ゴーウゴウ
てっぺん童子も負けていない。
ほう・ほう・ほわああん
ビュービュー・ビュルル・ゴーウゴウ
ほう・ほう・ほわああん
すると「やめてくれよ」という声が一斉にした。冬芽たちである。
「やめてくれって、ぼくのことかい?」
「そうだよ」
「どうしてさ?」
「僕たちには、この寒さが必要なんだ。こうして今凍えているからこそ、ちゃんとした葉っぱになれるんじゃないか。何百年もこの森にいるのに、知らなかったのかい?」
「・・・・・ごめん」
てっぺん童子はしゅんとうなだれてしまう。
彼のほとんどの記憶が、ほんの数日で消えてしまうことを知らない冬芽たちは手厳しい。
てっぺん童子はすごすごと別の夢に沈んでいった。
朝が来た。北風はやみ、山は寒いけれどキラキラと輝いている。
アナグマの親子に別れを告げたてっぺん童子が樹冠にのぼると、冬芽たちが一斉に
「オハヨ」
「オハヨ」
「オハヨ」
と出迎えて、山が鳴らんばかりである。
てっぺん童子の顔は朝日を浴びて、バラ色に輝いた。
 N田さん  「なな山だより」40号より(加筆訂正)

てっぺん童子_冬.jpg

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たんぽぽ戦争 [アトリエN]

 T市郊外の、とある丘の斜面。春の風に綿毛を飛ばすニホンタンポポの一群があった。
 タンポポA「ふわふわ綿毛、タンタン飛ばせ」
 タンポポB「真っ白綿毛、ポポンと飛ばせ」
 タンポポC「僕らの春は短いぞ、もうすぐ夏だ。夏になったら」
 タンポポD「夏になったら花枯れ葉枯れ」
 タンポポE「夏になったら地下でオネンネ」
 すると、タンポポ少女の声がした。
 少女「あたし、もっと咲いていたいな」
 タンポポA「ダメだよ、それは。夏はカヤやススキやヒマワリの季節さ」
 タンポポB「そうさ、夏は大きな草が、僕らの上にはびこるんだ」
 タンポポC「だから夏には僕らオネンネ。冬になったら葉を出して、春になったらさっと花をつけるんだ」
 するとタンポポ少女は口を尖らして
 「だってあの空地のタンポポは夏も秋も咲いてるじゃないの」
 みんなが一斉に言った。
 「あれはセイヨウタンポポ、僕らの敵さ。この場所を乗っ取ろうと狙ってるんだ」
 タンポポA「悪くて、ずる賢いやつらさ。一年中花を咲かせて、そのくせ花粉要らずで殖えるんだ」
 タンポポB「そのくせ馬鹿なハナアブに花粉を運ばせるんだ」
 タンポポC「奴らの花粉を貰っちゃダメだよ、乗っ取られるぜ」
 全員「気をつけろ、気をつけろ。セイヨウタンポポには気をつけろ。乗っ取られないよう気をつけろ」
 もう、ニホンタンポポの短い春も終わる。
 最後の綿毛をタンタンポポンと飛ばすと、彼らは夏眠の準備に入った。
 夏がやってきた。
カヤやクズやヒマワリや、野菊のはびこる丘の斜面に、まだ咲き残っているタンポポが二株・三株。
 タンポポA「どうしたんだろう、眠れないや、僕」
 タンポポB・C「君もかい?僕らもさっぱりだよ」
 のしかかる大きな雑草の草いきれにあえぎながら、三株のタンポポは花を揺らす。
 よく見ると、その総苞外片はわずかながら反り返っている。
  N田さん

タンポポ_2017-05-11.jpg
タンポポ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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ランになれなかった男 -アトリエN [アトリエN]

なな山に住まいされる土地神のおひとり、中谷主命(ナカノタニノヌシノミコト)の前に、ある日一人の若者がやってきた。
「神様、私を花にしてください」
またとんでもなくメンドクサイ奴が現れたわい、と中谷主命は舌打ちして、
「なにゆえにそう願うのじゃ」
と、のたまわれた。
若者が言うには
「ヒトの世は、争いに満ちています。わたくしは花になって、平和に暮らしたいのです」
命「なにをバカなことをいう。生き物はすべて争いのなかで生きるものじゃ。ヒトであろうが獣であろうが、花であろうが、戦って生き抜くほかに道はないのじゃ。やめとけ、やめとけ、花なんぞよりは人間のほうがよっぽどましであるぞ。食えなくなれば生活保護もあるしのう」
すると若者は上目づかいにミコトをみて、こう云った。
「ひょっとして、神様はわたくしを花に変えるほどの力がないのでは?」
命「なにをいうか。それならば、花に変えてやるから誓約書を書け」
若「誓約書でございますか?」
命「そうじゃ、あとでゴタゴタになるのはゴメンじゃからのう」
若「ははあ、あなたさまはそれほど高位の神様ではないのですね。百条委員会とかが怖いのでしょう?」
ニヤリと笑う若者にミコトはむっとして
命「みかけによらず性格の悪い奴じゃ。そんなことではヒトの世も棲みにくかろう。いいから、さっさと誓約書を書け」
若「書きますとも」
若者が書いた誓約書を懐にしまった神様に若者が尋ねた。
「ところで、わたくしを何の花に変えて戴けるのですか?」
命「そうよなあ、ドクダミなどはどうじゃ?」
若「あれは臭くて嫌でございます」
命「メンドクサイやつじゃ。それならば、おまえの望みをいうてみよ」
若「キンランがよろしゅうございます」
命「贅沢をいいおって」
メンドクサくなった中谷主命が手のひらを一振りすると、若者はキンランの根っこに変わったのであったが、花期になっても芽は出てこない。中谷主命がある日、林内を散策していると、地中から声がして
「神様、お救けください」
命「その声はあの時の若者じゃな、どうしたのじゃ」
若「たくさんの菌がうじゃうじゃと群がってくるのですよ。なんとか追い払って戴けませんか」
命「なにを愚かなことを。それは共生菌といって、そいつらなしではランは生きられぬのじゃ、花を咲かすにも、菌の助けがいるのじゃぞ」
若「そんなことを今頃言われても困ります。はじめに言ってくださらなければ」
命「良く聞けよ」
中谷主命が申されるには
「ニンゲンの腹の中にも百兆以上の菌が棲まっておるし、皮膚にも1兆以上の常在菌がおるのじゃ。いうてみれば、いきものというものは、菌と一緒に体を作り上げておるのであるぞ。百や二百の菌でうだうだ言ってどうする」
若「そうなのですか、初めて知りました」
命「であるから、キンランでいたいのなら、菌と仲良くしなければいかぬぞ。よく話し合うのじゃ、メンドクサがらずにな」
若「あなたさまに言われたくはありません」

結局、若者はキンランになることはできなかった。若者が菌を嫌った以上に、菌も若者を嫌ったようである。
途方にくれた若者が、
「神様、私はどうしたらよいのでしょう?」
命「人間に戻るしかあるまい」
若「人間界は嫌なことばかりです。どう切り抜ければいいのでしょう?」
命「そうよのう、嫌なことは柳に風と受け流せばよいのではないか?」
すると若者は、ガバ!と命にしがみつき、こう言った。
「神様、それでは私を柳にしてください」
              おしまい。
  N田さん

キンラン_2.jpg
キンラン。4月から5月にかけて開花する。花は半開きで完全に開かない姿が可憐。絶滅危惧種。菌類と共生しているので、採取しても育てるのは不可能。

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喰えないやつら [アトリエN]

とある菜園の中、ジャガイモ爺さんの自慢話が始まった。
「ウオホン、並み居る野菜の中で被告席についたのは、わしのご先祖様くらいのものじゃろう」
インゲンマメもゴーヤも、アスパラガスも、そしてキャベツにトマトも、またかという顔でそっぽを向いているのだが、ジャガイモ爺さんはお構いなしである。
「時は1748年、フランスはブザンソンの高等法院で有罪判決を受け、栽培禁止となったのじゃ、そもそも・・・・・」
爺さんの長広舌に耐えかねて、ゴーヤが茶々を入れる。
「爺さんよ、それは18世紀の話だろ?今じゃあ、飼いならされて、ずいぶん温和しくなったのじゃないのかい?」
「なにを言うとる」
と、ジャガイモ爺さんはムキになって
「どんなに時代が過ぎようと、野性の牙は抜かれておらぬわ。そもそもこの国で一番中毒率が高いのは、わしらジャガイモなんじゃ。一度あたれば腹痛・嘔吐・下痢・めまいでのたうちまわり・・・・・」
「下痢・嘔吐・腹痛なら、おいらも負けていないよ」と、インゲンマメが口をはさむ。
「しかも、わずか5粒もあれば十分。ひょっとしたらジャガイモさんより強烈かもね」
そこにゴーヤが割って入り
「さあてねえ、それなら俺たちのほうが、凄いかもよ」
すると、そこにアスパラガスの声がした。
「ちょっとあんた達、嘔吐・腹痛・下痢だなんてイケてないんじゃない?しかも汚いしさ。あたしたちみたいにクールにいきましょうよ」
「お前さんのどこがクールなんだよ」
ジャガイモ・インゲンマメ・ゴーヤが一斉に突っ込むと、アスパラガスはすまし顔で
「あたしはね、ヒトのお腹にはあたらないのさ、農家の人や、缶詰工場で働く人たちの眼や鼻や喉に、ちょいと悪さをしてやるんだよ」
「けっ、それのどこがクールなんだよ、陰険なだけじゃないか」
「ああら、インゲンさんに云われたくない言葉だわねえ」
キャベツとトマトがおずおずと割って入り
「まあまあ、皆さん、喧嘩はやめましょうよ」と、とりなしたが、みんな興奮しているので、おさまるものではない。ジャガイモ爺さんなどは
「なんだお前らは。毒にも薬にもならぬ腰抜け野菜のくせに」
きめつけられて、怒りと屈辱のためにキャベツは青ざめ、トマトは赤くなった。
「私たちだって、毒ぐらいは持ってますよ」
× × × × ×
キャベツとトマトの名誉のために言っておくが、アブラナ科のキャベツにはカラシ油配糖体があり、これがゴイトリンというものに変身すると、極めて厄介なことになる。もっとも、市場に出回っているものは品種改良済みで、ほとんど問題にはならないらしい。
トマトの毒性物質であるトマチンは、不快感や胃の不調をきたす物質だが、赤い実を食べて中毒するには相当な量を食べなければならない。しかし、茎や葉には実の2400倍ものトマチンが含まれている。アステカからヨーロッパに持ち込まれたこの野菜が、200年もの間、虫垂炎や胃がんを引き起こすと云われ続けていたのはこの為かもしれない。
ジャガイモは、あまりに小さいものや、長時間光に当たったものは避けた方がよさそうだ。
インゲンマメは調理前に良く水に浸し、柔らかくなるまで加熱すること。加熱が不十分な場合は、生のマメの50倍にも毒性がはねあがる。
店頭に並ぶゴーヤは未熟果で、まず中毒の危険はないが、収穫期を過ぎてオレンジ色に完熟した果実は怖い。この話には登場しなかったが、完熟果が怖いのはズッキーニも同様である。家庭菜園からのおすそわけには十分注意した方がよさそうだ。
      N田さん

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ドクダミ [アトリエN]

 なな山に住まいされる土地神のおひとり、中谷主命(ナカノタニノヌシノミコト)は、ある日、こう申された。
 「シブキよ、そなたはどうしてそんなにも臭いのだ?」
 シブキというのはドクダミの古名である。ドクダミが答えて云うには
 「これはデカノイルアセトアルデヒドという物質(もの)のにおいでありまして、私めが天より授かったものでございます」
 命「なに、天からとな?して、そのわけは?」
 毒「この中の谷には、私の体に害をなすカビや菌がおりますゆえに」
 命「それならば、カビや菌のおらぬ処へ行けばよいではないか」
 毒「私めはこのような日陰の湿った場所でなければ生きられませぬ」
 命「ふうむ、メンドクサイやつじゃのう」
 「へびぐさ」「てぐされ」その他数々の異名を持つこのドクダミ、もともと陰湿地を好む植物ゆえに進化の結果としてデカノイルアセトアルデヒドを獲得したのか、それとも初めからその物質を有していたので、生存競争に有利な小暗い湿った場所に身を落ち着けるに到ったのか、浅学な私には分からない。
 薬草である。化膿止め・下痢止め・神経痛改善・動脈硬化・アトピー・利尿便通・高血圧予防など。薬効の範囲は広い。
 馬の十種類の病気を治すというので「十薬」という別名もある。
 葉を陰干しにしたものをお茶にして飲むと体に良いと言われているが、カリウムを多く含むため、腎機能の低下している人にはお勧めできない。高カリウム血症の誘因になりかねないからである。
 わが国ではどちらかと言えばマイナーな印象の強いこの草が、欧米では園芸植物として大人気だというから、わからないものだ。
 タイやベトナムなど東南アジアにはドクダミ料理があり、臭みもなく、なかなかイケルらしい。今度試してみたいものだ。
 それはさておき、この植物は正常な生殖が出来ず、クローンの種子で殖えるため、花粉を必要としないという。
 花は中心部の柱のような部分に集まっており、白い花びらのように見えるものは虫を呼び寄せるために葉が変化したものだそうだ。
 ちょっと待ってくれ、花粉を必要としないのに、なぜそんな手の込んだしかけが要るというのか?
 メンドくさいやつじゃのう・というミコトの声がまたもや聞こえてきそうだが、いつの日か普通の植物として当たり前に生殖して殖える・そんな日が来るのを夢見てじっと待ち続けているのかもしれない。
       N田さん

ドクダミ.png
ドクダミ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)



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